第44回 学術集会大会長
松田 恭寿(まつだこどもクリニック院長)

 香川医科大学小児科教授故・大西鐘壽先生は、妊娠、出産、育児に対し内分泌機構による母性行動の発現と神経機構による母性行動の維持という概念を提唱した。
すなわち「母性のスイッチ」と「母乳育児」である。妊娠後自分の体形の変化とともに、母親に体験談や母親教室などで得た情報などから出産、育児の準備を始め、家族に見守られながら出産当日を待つことになります。
 出産後は、今まで体内で養育してきた我が子と始めて対面することとなり、初回哺乳、早期皮膚接触などを通して(母乳)育児が始まります。イギリスの小児科医、精神科医であるウィニコットは「母乳を飲ませるということは、赤ちゃんがほぼ良い環境的供給をうけて人生をスタートした事である。」と述べています。生後1か月頃になると授乳以外にも、皮膚の接触、話しかけなどを通して親子の絆(母児の愛着)の形成がしっかりとしてきます。児の発育とともに、絵本の読み聞かせ、おもちゃを使った遊び込みなどと関係性は多様化してきます。
 一方、虐待の世代間伝達は、約30%と言われており、虐待による死亡の半数は1歳以下で、実母からの虐待は、60%程度と言われています。今の所、虐待は、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクトの大きく4種類に分類されています。英語の「マルトリートメント」は、「不適切な養育」と訳され、虐待より広い意味で使われる事が多く、厚生労働省の「子どもの虐待の援助に関する基本事項」では、日本の児童虐待に相当するものと定義しています。つまり、子どもの心と身体の成長・発達を妨げる養育を全て含んだ呼称とされています。
 今回は、マルトリートメントに着目して、出生前から出産後までの子どもの養育環境について考えてみたいと思います。

学会へのお問い合わせ:お気軽にお問い合わせください。ibarakibosei@ipu.ac.jp原則、E-mailでのお問い合わせをお願いしています。
電話対応可能日は不定期です。
つながらない場合は、ご容赦ください。TEL:029-840-2837